イギリスのEU離脱から思う事

2016/06/26

イギリスのEU離脱

2016年6月24日、世界経済が大荒れの一日となった。震源地はイギリスである。国民投票によりイギリスがEUから離脱する事が決定した歴史的な一日となった。EUへの残留を予想する声が大勢だった事もあり、遠く10,000km近くも離れた日本にも瞬く間に激震が走り、驚きと共に今後の不透明感から株価は急落、為替も日本円が急騰、各通貨に対して急激な円高(対米ドルが一時99円台)となった。一日で7円を超える変動幅は過去最大との事。 私はこの医師転職コンシェルジュを運営する今の会社を起業するまで総合商社で貿易(輸出・輸入業務)に携わっていた。当時、オフィスの壁面には刻々と変動する為替ボードがあり、毎朝財務部から社内放送で流される「本日○時発表、○○銀行、対顧客米ドル為替レートTTSは・・・、TTBは・・・」といった社内アナウンスと共に一日がスタートする日々を送っていた為、今でも為替レートの変動や株式相場をwatchする習性が染みついており、この国民投票の結果にも注目していた。当時であれば為替予約のタイミングなどに神経を使いヒヤヒヤしていた事だろう。

今回のイギリスの国民投票結果から見えてくる事

さて、このイギリス、漢字では英国とも略称されるが、その正式名称は「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国(The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)」。 クイズで出題される事などもあるが、医師の方は受験時に覚えた人も多いかもしれない。正式名称が示す通り4つの国(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド)から構成される連合王国(United Kingdom)であり、現在の国家元首はエリザベス女王である。元々別々の国だったものがイングランド王国によるウェールズの併合(1543年)、イングランド王国とスコットランド王国の連合条約(1707年)によりグレートブリテン王国成立(グレートブリテン島が統一)、更に西隣のアイルランド島(アイルランド王国)を併合(1801年)するなど紆余曲折を経て連合王国となり、1922年にアイルランドの6分の5がイギリスから分離独立し、現在の形になってから約100年。 その間に第二次世界大戦などの反省から1973年にEC(欧州諸共同体European Community)、そして1993年に今回離脱を決めたEU(欧州連合European Union)が創設されイギリスも主要国のひとつとしてヨーロッパ大陸側の諸国との経済連携(関税撤廃や自由な往来など)を進めてきた。 経済格差や民族・文化・宗教などの違いを乗り越え、微妙なバランスの上にEUは成り立っている訳だが、アラブの春に端を発した中東・北アフリカ諸国の政情不安や内戦などの影響でシリアや地中海を隔てたアフリカ諸国などから多くの難民・移民が欧州各国に流入しており、イギリスにも職を求める移民が欧州各地から海を越えて渡ってきた結果、地元民との様々な摩擦が顕在化していたようである。EU加盟国間では労働者の移動の自由があるらしく、その流れを止める為にはEUから離脱する必要がある、或いは真の独立国家の姿を取り戻したいという国民が過半数を超えたというのが今回のイギリスの国民投票結果から見えてくる一面であろう。 元々イギリスは通貨統合(ユーロEURO)には参加せず、自国通貨のポンドを現在も使用し続けているが、そのポンドもドル、円など主要通貨に対して今回の動向を受け大暴落している。

一定の存在感を保ち続けているスイスの自国通貨スイスフラン

そして、今回改めて欧州の地図を眺めていて感じたのが、小国ながら燦然と存在感を放っているスイスという国である。EUにも参加せず通貨も自国通貨スイスフランが一定の存在感を保ち続けており、かといって孤立している訳でもなく、我が道をゆくという印象を受ける。 欧州のど真ん中に位置し常に他国からの侵略の脅威にさらされてきたこの永世中立国の外交姿勢には興味をそそられる。また機会があれば見てみたい。

繰り返される離合集散の歴史

イギリスに話を戻そう。2年前にはスコットランドでイギリスからの独立の是非を問う住民投票が行われた。その時は残留派が過半数を占めイギリスからの独立は一旦見送られたが、今回のEU離脱を受け、スコットランドではイギリスからの分離独立を求める声が再燃するとも言われており、また、北アイルランドもイギリスから独立してアイルランドへ合流する動きがでてくるかもしれないとの見方もある。元々北アイルランドは1920年にアイルランドがイギリスの支配から独立した際に結局、アイルランドではなくイギリスを選び連合王国(UK)の一部として留まった歴史があり、宗教(プロテスタントとカトリックの争い)や主義主張の違いから過激な武力闘争やテロも繰り広げられた地域であり世界地図で見ると小さな地域だが、そこにも180万人もの人々が暮らしている現実があり利害が交錯しているのだ。地名や国名だけ眺めていたのでは見えてこない人間模様がそこにはあるのだろう。 私の世代が地理で習った国名の幾つかは最早存在しない。例えば、ソ連やユーゴスラビア。社会主義政権の崩壊や武力衝突など大混乱を経て分離独立した国々(結果、様々な問題を今なお抱えている)。旧ユーゴスラビアは現在クロアチア、スロベニア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロの6つの国に分かれた他、今なおセルビア内部の自治州(コソボなど)では独立を求めての火種が燻っている。NATO軍も参加したコソボ紛争は記憶に新しいところ。旧ユーゴ時代の1983年にはサラエボ(現在のボスニア・ヘルツェゴビナの首都)で冬季オリンピックが開催されたのを記憶している医師の方も多いだろう。その僅か8年後にこのユーゴスラビアという国は悲惨な内戦に突入して国が6つに分裂してしまった訳である。 これとは対照的にチェコスロバキアは平和的に連邦制を解消し(ピロード離婚と呼ばれている)、現在はチェコ共和国とスロバキア共和国が以前よりも良好な関係で両国ともにEUメンバーに名を連ねている。 歴史を見ると離合集散の繰り返しだ。さて、イギリスはこれからどんな道を歩むのだろう。

イギリスのEU離脱による、医師への影響

医師の仕事や医師の転職とイギリスとは殆ど直接的には何の関係も無いが、留学や臨床で今まさにイギリスにいらっしゃる医師の方々や将来的にイギリスを候補先の一つとして検討していた医師の方もいらっしゃるだろう。 また、間接的には世界経済、そして日本経済に多大な影響を及ぼす出来事であり、今後の日本政府の経済政策や医療行政にも当然影響が及ぶのは避けられない。 ひいては医師の年収や給与(アップ?ダウン?)傾向、医師の資産形成(資産の一部を外貨で保有している医師も少なくないだろう)にも関わる問題なのである。

日本の政治経済の現状とこれからへの不安

日本は今のところ比較的平和で、民族、宗教、文化など多様な価値観を寛容に受け容れる土壌があると思うが、段々と日本も余裕が無くなり人に対する優しさを失いつつある。 財政再建待った無しの状態がかれこれもう20年以上も前から言われて続けているのに、この期に及んでも無責任で良心の呵責を感じない嘘つき権威者や既得権益者たちが私利私欲の為にやりたい放題やっている。胡散臭い輩は大衆を欺く事だけにかけては天下一品だ。もうすぐ参院選や都知事選で例によって(選挙の時だけ)一生懸命大衆にペコペコと頭を下げ、当選した途端、ふんぞり返って自分が偉くなったと大いなる勘違いをする人たちが駅前や街頭に大量出現する。そして、お祭りムードに水を差して申し訳ないが2020年に東京でオリンピックなんてやる余裕が本当にこの国にあるのだろうか。そして無理をしてオリンピックを開催したその後、その祭りのツケは一体誰がどう払うのだろうか。ちなみに日本が戦後初めて赤字国債を発行したのは前回の東京オリンピックの翌年1965年の事である。オリンピックの反動不況を乗り切るという目的で「臨時的・例外的に」発行されたものである。一旦タガが外れると(悪しき前例ができると)歯止めが利かない。財務省が公表している2015年末の日本国の借金は1,045兆円程(一千兆円超えですよ)で毎年どんどん膨れ上がっている。アテネ五輪の後のギリシャ、ロンドン五輪の後の今回のイギリス、そしてリオデジャネイロ五輪を控える問題山積のブラジル。日本も同じような道を歩むのだろうか。 今日は少し暗い話題と愚痴めいた内容のコラムとなったが、良識ある医師の方々にはそれぞれ考えるところがあれば幸いである。 海外勤務にご興味がある医師の方は(現在あまり海外の医師求人は多くありませんが・・・)、本サイトの医師登録からご登録下さい。 ご希望に合わせた海外転職先のご紹介をさせていただきます。

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著者:三木正孝


医師転職コンシェルジュ代表。医師の方が自分らしい働き方、ライフスタイルを過ごす事が出来る様な転職支援を行う医師転職コンシェルジュを運営しております。医療業界や医師転職に関する情報に独自の意見も加えて発信していきます。どうぞよろしくお願いいたします。

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